(司会・『銀河鉄道の夜 TYPING』プロデューサー大上和男)
大上: 今回、ナレーターを決めるとき、KAGAYAさんも桑島さんを強く推されましたが、その理由はどんなところだったのですか?
KAGAYA: まず経歴で、宮沢賢治さんの作品を読むのをライフワークにされている。それでこの人なら大丈夫と思ったんです。
『銀河鉄道の夜』というのは知らない人が読むのは難しいんです。不完全な原稿ですし、難しい言葉もいっぱい出てきます。ですから、読みなれている人でないと大変なんです。
だから、本当に桑島さんで良かったって思います。
桑島: 不思議ですが、本当にタイミングがぴったりだったんです。実は、『銀河鉄道の夜』のノーカット版を今年の夏にプラネタリウムで朗読したばっかりだったので。
大上: 『銀河鉄道の夜』のデモ映像を最初にご覧になった時はどういう感じでした?
桑島: 衝撃的でしたね。だってあんなの見たことないですもん。
大上: 音楽はいかがでしたか?
まず最初に『癒し』『リラクゼーション』というコンセプトがあり、従来なかったタイピングソフトをめざしたのですが…。
桑島: タイピングソフトって何か疲れそうなイメージですけど、これは逆にホッとするっていう感じの、あまり今までにない感じなので、とても面白く思いました。
大上: 「うりゃぁー!タタタタタ」という感じではなく…。
桑島: 押した瞬間の、なんか星の音みたいな綺麗な音とかがいいですね。例えば、銀河鉄道の本文の中で少女が食べた林檎が全部綺麗に砂になって消えていく…というシーンがありますけど、そんな音みたいですよね。トントントン。すごくロマンティックな感じです。

 

大上: そもそも宮沢賢治との出会いは?
桑島: 子供の頃から父の朗読を聞いたり、地元の劇団の公演を見たり、身近な題材としてありました。
岩手出身で、声で何かを表現する声優というお仕事をやっているからには、宮沢賢治をライフワークとして朗読したいという夢があって、その夢の中に今回のお仕事も含まれているような気がして非常にうれしいです。
賢治を特に大事に思うようになったのは、やっぱり上京してからですね。
ずっと岩手に住んでいたら当たり前だった風景とかが東京に来てみたら当たり前でない…例えば星空ひとつとってみてもそうだし、季節感とか、季節の匂いのようなもの…稲穂の匂いなんかは東京の都心に住んでいるとなかなか嗅ぐこともないし。
そういうものを忘れたくないなという思いを込めて朗読をこれからもしていきたいと思っています。
大上: 宮沢賢治とふるさとが繋がるわけですね?
桑島: そうですね。でも、子供の頃はすごいコンプレックスに思っていたんですよ。
KAGAYA: それは何故ですか?
桑島: 演劇、お芝居とか、子供の頃からそういう方面に行くつもりでしたので、やっぱり地方に住んでいることがハンデなように思ってました。
でも上京してみたら全然そんなことはなくて、地方から出てきている人たちがいっぱい住んでいる街なんですね。みんなどこか寂しくて、ふるさとを思っている…。
大上: 岩手から上京してきた石川啄木が、故郷恋しさのあまり上野駅へ通い、「ふるさとの訛なつかし停車場の人ごみの中にそを聴きにゆく」という有名な歌を詠んでますね?
桑島: そういう地元の暖かさっていうものを懐かしく思ったりとか、大切にしたいなって思って、その中に賢治があってくれてよかったなって感じはしますね。

 

桑島: 『銀河鉄道の夜』はやっぱり思い入れがすごくありますね。
この中に描かれている少年像なんですが、私はすごいどっちかというとジョバンニは自分だなって思っていて、カムパネルラにすごく憧れているジョバンニ、ってのがあるんですよ。
大上: 桑島さん自身が憧れているんですか?
桑島: カムパネルラは私の理想の男の子なんですよ。カムパネルラに憧れているジョバンニなんだけど、でも、カムパネルラも実はジョバンニのことをすごくうらやましいと思っているんじゃないかとか。
そういう繊細な男の子たちの気持ちを表現したいというか、子供の頃から男の子役をやりたいというのがありまして、その中で『銀河鉄道の夜』っていうのは目標みたいな作品だったんです。
大上: 今回読んでいただいた時に、全部キャラが切り替わっていくじゃないですか。まさに、単純な朗読のナレーションではなく、桑島さんの『演技者』たる所以を納得させられたんですけど、各キャラクターをどういう風に演じようというのは、昔から作ってきていたんですか?
桑島: 『銀河鉄道の夜』は中学生の頃に昼の校内放送で読んでたんですよ。その時から自分の中ではイメージしていたものがあって、それがベースにはなってますね。
でも、大人になってから読んでみると、「なんだ全然違うじゃない」っていうこととかも出てきちゃって。そこでちょっと軌道修正したりもしましたが、割と子供の頃の直感で「この人ってこういう人」っていうのはありましたね。
大上: では、今現在の桑島法子として『銀河鉄道の夜』で一番伝えたいものってなんですか?
桑島: そうですね。朗読をする時に、あまり、こういうふうに感じて欲しいとか、押しつけはしないであくまでも聴いてくれる人の想像にゆだねている部分が大きいんです。この作品には賢治の理想やありとあらゆるものが凝縮されています。読むたびに新しい発見があったり、読む年代によって感じ方も違うから。
「あなたなりの宝物を見つけてください」という感じですね。

 

大上: KAGAYAさんは、桑島さんとはまた違った読み方をされてましたか?
KAGAYA: 私も子供の頃からずっと読んでいて、絵を描く為にも読みました。
でも、桑島さんとは読み方がちょっと違っていたんで、朗読を聞かせていただいていて「あ、違う雰囲気が流れてきたな」って時があるんですよ。
で、それがいいんですよ、それがまた面白い。
私はずっとこれからも『銀河鉄道の夜』の絵を描き続けると思うんですよ。『ライフワーク』とはどうかわからないんですけど。その時に今回の仕事で多分桑島さんに読んでいただいてちょっと『新しい風』というか『新しい空間』が広がったような気がするんですよ。
宮沢賢治さんが創ったこの『銀河鉄道』っていう世界が私の頭の中にもできていて、いつでもその風景の中に入っていけるんです。
そういうのを繰り返してきて絵を描いてきたわけなんですけど、そこの世界にまた違う色とか匂いとか風とかが入れられそうな気がします。
大上: 桑島さんの朗読によって触発された?
KAGAYA: はい。本当に自分色の世界だったところに、ちょっと違うイメージの色がきたなっていう気がしましたね。
で、ずっと収録も付き合わせていただいてとっても親しみも沸いてきましたし、私もファンになりました(笑)。「好きだ」とか「思い入れがある」とかって、出来上がるものが全然違いますからね。
桑島: うーん、違うでしょうね。
大上: 僕も立場的にはコンテンツ企画屋というか、コンテンツを作るのが仕事なんですけど、良質なコンテンツをずっと後世に残したいとか伝えたいという思いがあります。
今回、こうして、KAGAYAさんのすごい良質なコンテンツとご縁でお会いできましたし、それからナレーションで、桑島さんと巡り合った。そして、お二人のコラボレーションで、このソフトができたのですが、タイピングソフトという枠を超え、宮沢賢治の名作をデジタルの世界で新しくよみがえらせることができたと確信しております。
おかげさまで、コンテンツ屋冥利に尽きる仕事ができました。ありがとうございました。